歴史と同時代性が交錯するところ
住友文彦(東京都現代美術館 学芸員)
審査は、まず自分の考えを更新させてくれる貴重な経験になる。応募案を眺めるたびにそれまで保持していた評価基準の再考を迫られ、審査員同士で交わされる意見の交換によって、評価するための枠組みを確認するのは労力を要するが楽しいことでもある。この審査会は、まだ実現していない展覧会企画を応募してもらって、それについて議論を交わすという点で、他にあまり例をみないもので期待感があった。
とにかく何でも第1回目は公募する側と応募する側の思惑がすれ違うことがあってなかなか難しい。明確にしておきたいのは、これは作家や作品の審査とは違って、展覧会企画の提案なので、作品の質が高くても企画に評価すべきところがなければならないと私たち審査員は考えた。もちろん、場所や企画に関係なく良い作品を鑑賞できれば展覧会はたいがい成功する。しかし、ここで評価の対象になるのはあくまでも展覧会の企画案である。入賞者は実際に展覧会を開催して一般の来場者にも足を運んでもらうので、作品の質も審査の対象に含まれるが、二次的なものにならざるをえない。
今回選んだ黄さんの提案は、美術展としてはオーソドックスなものであったが、彼女の経験や出自を活かしていることや、今後も展覧会の企画を引き続き仕事としていくための後押しをする意義を私たちが認めた。展示の構成案や、「儚さ」というテーマの掘り下げにまだ不満は残るが、今後の課題として受け止めていただくことを期待したい。もう一人、岩井さんの提案は、展示室を情報技術によって拡大/拡散させるもので、安定した展覧会の場所性や時間性を必要最小限の技術力によって揺るがす可能性を持つ。しかし、情報や映像メディアの特徴をとらえて企画案に反映させるには、もっと動きのある場がつくられていかないといけないだろう。
本当はもっと野心的なことも応募案に含みたかったと思っている方も多いはずだ。展覧会を企画実践するうえでは、予算の少なさも今後の課題になるだろう。ただ、名の知られたアーティストや関係者でも低予算企画への参加を快く引き受ける人は多いし、打てる手はいろいろあるように思える。それよりも、もっと十分に時間をかけて準備をしてもらえるようにすることは公募する側に改善の余地があるかもしれない。
正直に言うと、冒頭で述べたような新鮮な驚きには出会えなかった。展覧会という芸術と人々が出会う場所、そこでうまれる複数の見解が交換される場所が持つ可能性には、未開拓の領域が多くあるはずで、それをどんどん見つけ出していくことを今後の応募案でも期待したい。展覧会は単体で成り立つのではなく、過去におこなわれた展覧会、同時代の社会の出来事などが複雑に絡み合う地点に置かれていることを強く意識して、それらから多くのことを学ぶと同時に、柔らかな感性によって向かい合えばきっと面白い企画は生まれる。まずは受賞した二つの企画の実現を心から楽しみにして、そこが多くの人が集って意見を交わす、次の創造の現場になることを期待します!