企画の公募にあたって
Judge's Statement
■毛利嘉孝
(社会学者、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科准教授)1990
年代に入ってアートの表現形式は一気に多様化した。アーティストは、もはや単に絵画や彫刻、インスタレーションのような物質的な作品を作るだけではなく、
情報やネットワーク、あるいはコミュニケーションのような非物質的な生産物から、学校や病院あるいはアートセンターのような制度まで、社会の創造に関わる
人になったのである。
この「ポストプロダクション」(ブリオ)とでも呼ぶべき時代において、伝統的な芸術制度の中心に位置していた美術館やギャラ
リー、展覧会、そしてキュレーターの役割も大きく変容している。キュレーターとは、単に作家や作品を選定する人でも、閉じたホワイトキューブの壁を埋める
人ではない。より広い世界を相手に格闘し、アーティストとともに社会に対してヴィジョンを提供する人である。とりわけ震災以後の時間の生きる私たちには、
今アートに何ができるのかということが真剣に問われている。野心的なキュレーターの登場に期待したい。
■神谷幸江
(広島市現代美術館学芸担当課長)いま、なぜ、この場所で。展覧会を企画しようとするとき、作品を、プロジェクトを見せる、見せなくてはと考える時、その問いはいつも企画者に突きつけられる課題です。
作
品を作るもの、提示するもの、観るものが共有する空間を創出する。そこで交される知的なやり取りや唯一無二の体験は、展覧会というプラットフォームが導き
出せるかけがえのない機会といえるでしょう。アーティスト/作品と観客を繋ぐメディエータとなって企画者は何が出来るか、その回答は1つではなく、様々な
試みが可能なはずです。
改めて身の回りに目を向け、自ら判断し、価値観を問い直すことの求められる今だからこそ、思索し、発信と受信の場となる展覧会によって出来る事の可能性はとても大きいと思います。
意欲的な企画を楽しみにしています。
■黒瀬陽平
(美術家、美術評論家、カオス*ラウンジ代表)今回の公募のテーマは「震災」ではない。しかし、状況は私たちに対して、平等に試練を突きつけている。
東日本大震災以後、私たちはいつ終わるとも知れない過酷な「非常時」につなぎとめられ、失ってしまったものを想い、そして、未来の死者についても考えざるを得ない状況のなかで生きている。
すでに多くのアーティストたちが、「いまアートに何ができるか」という問いへ向かって動き始めている今、キュレーションの役割もまた、厳しく問い直されるだろう。本企画をきっかけに、共に考え、議論できる場が作られることを願っている。
■家村佳代子
(TWSプログラム・ディレクター)311、文明と自然の大きなコンフリクトは、私たちに、日々様々な課題を投げかけている。
展
覧会を創る側も、見る側も、ステイブルだと思っていた地軸がずれ、自転が早まり、日本列島が動く想像だにしない変動は、私たちに大きな価値の転換をつきつ
けている。千年に一度、一万年に一度といった大きな生命サイクルが短期間に築き上げた文明に投げかける課題は、広く、遠いヴィジョンで取り組む姿勢を促
す。文化が、アートが'ヒューマン・コンディション'を問うアクションとして、この大きな転換期に何を提示できるのか。展覧会とは何か?企画者、キュレー
ターの役割は何か?アートとは何か?公募する意義は何か?今こそこのようなベーシックな事項をディスカッションし、再構築していく良い機会です。TWSと
いう場が、企画者、アーティスト、観客の対話を促すコンタクト・ゾーンとなるような提案を広く募りたいと思います。